ミラノファッションウィークを離脱し、昨年から独自に「サロン」と銘打ち発表を行うボッテガ・ヴェネタ。2020年10月にロンドンのサロン01,2021年4月にベルリンのサロン02に続き、クリエイティブ・ディレクターのダニエル・リーが、10月22日にアメリカ、デトロイトでサロン03を発表した。
装飾のあるドーム天井をカメラが映し出す。ここはローマの遺跡だろうか? いや違う。アメリカ、デトロイトにある1926年築の、かつては4000人を収容したという劇場がランウェイだ。現在は駐車場に使われている会場は、アメリカが最も輝いていた頃の、まさに遺跡ともいえる。その中に、真っ白のセットアップが現れる。光り輝くような純白。しかし、よく見ると、素材は独特のうねりや「畝」や「しぼ」を見せている。スウェット上下に似たシンプルでミニマルな服には、ドラマチックな凹凸がある。そして、指にはサボテンや甲殻類のように、盛り上がる有機的なリングが揺らめく。
ダニエル・リーはボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターになった当初から、同ブランドの製品を、驚くような皮革素材で仕上げた。イントレチャートも極広幅の革で編まれ、またたくまにベストセラーとなった。そして今回は布にフォーカスを当てているようだ。たとえば金属糸を織り込む。そこには、かつて世界を制覇したアメリカの自動車産業、デトロイトはその本拠地だったことなど、この地の工業や技術革新を称える、という意図がある。
リー自身、イングランド北部の工業地帯の街の出身で、シンパシーを感じるのだろう。6年前にここを初めて訪れたときに、恋に落ちたという。次に、光沢のある黒いパーカのセットアップ。デザイン自体はクラシックなのだが、着た姿の迫力が半端ではない。まるで布の彫刻をまとっているようで、言ってみればカジュアルなパワースーツ=ロボットに身体を潜り込ませているかのようだ。着ればきっとチカラが沸いてくる。基本のアメリカンスポーツウエアと、工場で着られていたワークウエアを、現代的でハイパフォーマンスなデイウエアへと進化変容させている。
リサイクル素材のラバー糸を織り込んだトップス&トウザースが登場。この素材の不思議な凹凸は、まるで未来の服のよう。コロナ禍の間、触れ合うことが長く許されなかっただけに、こうした触覚を刺激する服が、いまもっとも着てみたい服だと気付かされる。
トレンド(発信源はボッテガ・ヴェネタ)のグリーンや海のようなブルー、そして輝くシルバー素材。かと思えば有機認証をしっかり受けた、ナチュラルな生成色のコットンジャケット。そこには「間違った」アイロン跡が見える。その、まるでプレス機でぺしゃんこにされたような無数の折りしわのある背中には、ヒールを履いた女性の脚のイラストが大きく描かれている。これはアメリカを代表する女優、マリリン・モンローのものだろうか?
会場を埋め尽くすのは、テクノやモータウンを生んだ音楽の街、デトロイト出身のエレクトリックミュージシャン、MOODYMANNによる目に見えない「音楽彫刻」。服で、異国や街への尊敬と愛を表し、それを世界に発信する。そして、それをみんなが着てみたくなる。これが最も平和的で意味のある「21世紀のファッションのあり方」かもしれない。